投資をするとき、何気ない行動や判断が最適な効果を打ち消す落とし穴となることがあります。
前回のトピックで紹介したプロスペクト理論にも通ずるのですが、人間というのは、ある状況下に置かれると非合理的、衝動的、さらには不可解ともいえる行動に出ることがあるのです・・・。
でもご安心ください。投資行動に関するバイアス(偏見、先入観)への認識を高めることで、そうした危険性を避けることができます。
バイアスには様々なものがありますが、今回は特に投資行動に影響を与えるバイアスについて紹介したいと思います!
目次
投資家はどういう考え方をする傾向があるか
短期的な損失に敏感になりすぎる
投資をしている人がとる行動・判断の傾向ですが、まず、しばしば短期的な一時の損失にばかり目を奪われがちで、ポートフォリオ(保有資産の組合せ)全体の状況を考慮せずに判断する傾向があります。
さらに、利益と損失では損失のほうが強く印象に残るため、個別資産の短期的な損失に敏感に反応してしまい、ポートフォリオ全体のリスクを抑えすぎて長期的なリターンが低水準にとどまったり、資産運用自体をやめてしまう場合もあります。
逆に、損失を取り戻すためにリスクを取りすぎる場合は、大きな損失につながることもあります。
ルールに従わず、自分の好みに偏ったポートフォリオになりがち
投資をする人は理屈で理解していても、実際の行動には移さないことがしばしばあります。
特に、先行き不透明感がある場合などは、買い増しや売却などの悩ましい決定を先送りしがちです。
また、よく知っている資産を好み投資する傾向があるため、分散投資の重要性をわかっていても、例えば馴染みのある日本企業の株に偏ったポートフォリオになっている場合があります。
自分を過信しがち
投資をする人は自分を過信しがちです。
将来を予測することはかなり困難であるにもかかわらず、自分は有望な投資先を選ぶことができると信じて単一の投資先に資金の多くを投資してしまうことがあります。
さらに、幸運と投資手腕を勘違いして頻繁に売買する場合、長期投資のリターンに及ばないことがしばしばあります。
知っておくと役立つ投資行動に潜むバイアスの種類
確証バイアス:人間はご都合主義に陥りがち
自分の先入観に基づいて持論に合う情報を選別し受け入れると、それにより自信を深めることで自分の先入観がより補強されてしまう心理現象です。
ひとことで言うと、自分にとって都合のいい情報だけを見つけようとする傾向のことです。
投資においても同様に、一度、投資方針やマーケットに対する見方を形成すると、ついつい自分が投資している会社にとって都合の良い情報ばかりを受け入れ、都合の悪い情報には関心を示さないことがあります。
それが結果として見通しの甘さにつながり、間違った投資判断につながってしまうのです。
正常性バイアス:人間は予測不能事態に耐性がない
災害心理学などで使用される用語で、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする心理現象です。
これが働くと、危険な状況であるにもかかわらず、都合の悪い情報を無視して「まだ問題ない」「今回は平気だろう」などと危険性を見誤り、逃げ遅れの原因となります。
投資に当てはめると、明らかに損切りをする局面であるにもかかわらず「自分は大丈夫!」とポジションを持ち続け、その結果損失を出してしまいます。
根拠のない「大丈夫」という感覚には注意が必要です。
サンクコストバイアス(コンコルド効果):人間はもったいない精神が強い
サンクコスト(Sunk Cost)とは、回収が不可能となった投資費用を指します。
今まで投資したサンクコスト(お金・時間・労力)が無駄になるのが嫌で、損するとわかっていても後には引けないと感じる心理現象です。
「ここでやめたら大損で終わってしまう!」と感じ、サンクコストに気をとられずにそこで損切りしていれば少ない損失で済んだのにもかかわらず、取り戻そうとさらにつぎ込んで損失を大きくしてしまう例などが該当します。
ホームバイアス:人間は自国のリスクを過小評価する
ポートフォリオの中で、自国の金融商品に過剰に投資してしまう傾向のことをいいます。
日本では、個人投資家だけでなく年金などの機関投資家でも国内金融商品への投資の割合がポートフォリオ全体の6~7割といわれています。
つまり、投資家や投資機関は自国の金融商品をひいき目に見るということです。
一般的に投資で勝つ条件は、「長期投資」と「分散投資」といわれています。
世界経済全体が安定して長期的に成長している現状、一国が抱えるリスクを世界に分散させる(海外資産に投資を行う)というのはリスクを避けるうえで重要であり、逆に言えば、ホームバイアスに陥って国内資産ばかりに投資するのはハイリスクな行為なのです。
ハーディング効果:人間は合理的な判断よりも周りに同調することを選ぶ
人と同じ行動をすることで安心感を得ようとする心理現象です。
投資でいえば、ブームに乗り遅れないようにする行動をいい、価格が好調なときに買い、安値のときには買い控えるといった行動です。
最近でいえば、特に仮想通貨市場がそれに該当します。
本来の価値とは異なり、急上昇した相場に乗り遅れないようにと合理的でない(高値すぎる)とわかっていたとしても、非合理的な行動に同調し、その後損失を出してしまうことを指します。
現状維持バイアス:人間は変化を望まず現状維持を好む
新しい試みをする際に、その選択が得をする可能性も損をする可能性もある場合、人は現状のままいることを選択する傾向になる心理現象です。
投資に興味があってもリスクを考えると踏み出せずにいる、というのはまさに現状維持バイアスの影響といえます。
現状維持バイアスの本質は「損失回避」という人間の本能的なで作用であり、どんなに意志が強い人でも賢い人でも関係なく陥る可能性が高いです。
代表性バイアス:人間は情報を「分類」してしまう
一度あるべき姿を思い描いてしまうと、新たな情報がもたらされた後にもその「あるべき姿」から逃れられなくなってしまう心理現象です。
例えば、一度、成長株と分類した株に投資したあと、新たな情報が加わり一般的には成長株と判断されない状態になっても、変わらずに成長株扱いを続けてしまう(成長株との分類を継続してしまう)ケースです。
まとめ:バイアスの罠にはまらないためには
この他にも様々なバイアスがありますが、投資行動において特に陥りやすいものをご紹介しました。
そもそも人間は、何かの意思決定の際にバイアスが働くことを知っていることが、対処の第一歩です。
短期的な損失ばかりに目を向けないようにするには、分散したポートフォリオ全体を把握したうえで、ポートフォリオを頻繁に確認しすぎないほうがいいとされています。
また、積立投資などの規律ある投資行動は、先行き不透明感が漂う中でも、合理的な投資行動(安いときに多く買う)につながります。
このように、投資の成功を妨げる様々なバイアスをあらかじめ知って役立てることで、堅実な資産運用の成功に近づくと期待されています。